近頃は健康志向や若者のクルマ離れとかで、自転車に乗る人が増えてきている。少し古いが、内閣府の『平成22年度 自転車交通の総合的な安全性向上策に関する調査』でまとめられている自転車の保有台数を見ても、それは明らかだろう。
そこで問題になっているのが、自転車による交通事故の増加だ。もっといえば、自転車が加害者となって高額の損害賠償責任を負うケース。記憶に新しいのは2013年の神戸地裁の判決だ。小学5年生(当時)が運転する自転車が62歳(当時)の女性と衝突し、意識不明の重体を負わせた結果、小学生の母親に9,520万円もの支払命令が出された。
他にも、100万円や200万円では済まない高額賠償事例は決して少なくない。
参考:自転車での加害事故例(日本損害保険教会)
http://www.sonpo.or.jp/efforts/reduction/jitensya/
「自分は加害者にならない」なんて誰にも言えないし、気をつけて運転していても、相手がお年寄りだとコツンと当たっただけで大ケガをさせてしまう恐れもある。また、先の事例のように、子供の行動まで制御するのは難しい。
したがって、万が一の高額賠償に備えて「個人賠償責任保険」は絶対に必要だとうさたんは考える。
ん? 自転車保険でなく個人賠償責任保険?
となった人のために、自転車保険の仕組みを簡単に解説しよう。
自転車保険は「交通事故傷害保険+個人賠償責任保険」のセット商品
「自転車保険」という名称がそもそも誤解を招くというか、そこは保険会社の戦略なのだが、自転車保険は「交通事故傷害保険」と「個人賠償責任保険」とを組み合わせて販売されているのがほとんどだ。
個人賠償責任保険は特約(オプション)で、主契約は交通事故傷害保険だが、大切な個人賠償責任保険から説明しよう。
個人賠償責任保険とは?
個人賠償責任保険は、日常生活のなかで他人の身体やモノに損害を与えて、法律上の損害賠償責任を負った場合に備える保険だ。自転車で人を跳ねてケガをさせた場合はもちろん、買い物中に店の商品を誤って傷つけてしまった、ベランダからモノが落ちて下の人に迷惑をかけた、散歩中の飼い犬が他人を噛んでケガを負わせた、など、さまざまなケースが該当する。
ちょっとした不注意が思いもよらぬ大惨事を招く恐れは十分にあるため、必ず加入しておきたい保険の一つに入ると考えて良い。保険料も月払い数百円程度で、5,000万円~2億円くらいまで対応できるはずだ。
交通事故傷害保険とは?
交通事故傷害保険というのは、自転車に限らず、“交通上用具に起因する事故”を補償対象としている。交通上用具なんて言われてもピンとこないと思うが、自動車や電車のほか、エスカレーターやエレベーターなんかも含む結構幅広い用語だ。
交通上用具に含まれるもの
①軌道上を走行する陸上の乗用具 汽車、電車、気動車、モノレール、ケーブルカー、ロープウェー、いす付リフト
②軌道を有しない陸上の乗用具 自動車、原動機付自転車、自転車、トロリーバス、人もしくは動物の力または他の車両により牽引される車、そり、身体障害者用車いす、乳母車、ベビーカー、歩行補助車
③空の乗用具 航空機(飛行機、ヘリコプター、グライダー、飛行船、超軽量動力機、ジャイロプレーン)
④水上の乗用具 船舶(ヨット、モーターポート、水上オートバイ、ボートを含む)
⑤その他の乗用具 エレベーター、エスカレーター、動く歩道
これらに搭乗(利用)中に起きた事故によるケガに対し、入院保険金や手術保険金、また通院保険金などの補償が出るのが交通事故傷害保険だ。
なぜ個人賠償責任保険だけを大切だと主張するのか
答えはわりと簡単なのだが、個人賠償責任保険は別に自転車保険からでないと加入できない保険ではない。自動車保険や火災保険の特約、またクレジットカードの付帯保険にも付いているので、既にそれらの保険から追加している人は、わざわざ交通事故傷害保険がくっ付いている自転車保険で入り直す必要は「少ない」のだ。
なぜなら、もし重複して加入しても、他社の補償額を合算して支払うなんて事例は稀だからだ。これは損害保険の仕組みからきているもので、損保というのは基本的に「損した分だけをカバーする」もの。たとえば、既に1億円の個人賠償責任保険Aに加入していて、新たに別会社の1億円の個人賠償責任保険Bに入っていた人が、自転車事故でやらかして5,000万円の賠償命令を受けたときの保険金は、どちらか一方に5,000万円請求するか、両社に2,500円ずつ請求することになる。このあたりは生命保険と違う損保独特のところだ。
もちろん、補償額の合算としては、A+Bの2億円なので、たとえば賠償額が1億2,000万円の場合は合算して支払われる。先程「少ない」を強調したのは、もともとの補償が少ない人には必要性があるためなので、該当する人は話が別。それでも、複数社を組み合わせて増強しようなんて考えるんじゃなく、一本しっかりした補償に入ることをおすすめする(請求や管理が面倒なので)。
繰り返してきたように、恐ろしいのは自分(または子供)が加害者になったときなので、個人賠償責任保険さえあれば自転車保険にこだわる必要はない。
なぜ交通事故傷害保険がいらないのか、説明不足かもしれないので、もう少し具体的に説明しておこう。このあたりを知らない人は意外にいるので、自分が加入している保険を今一度調べてほしい。
交通事故傷害保険を軽視する理由
先ほど触れたとおり、交通事故傷害保険の補償範囲は幅広く頼もしいが、これについては持ち前のマッチョ思考を働かせる。次の3つが、私が必要度は低いとする理由だ。
1.ケガの補償は貯蓄で対応が基本(たいした負担にはならない)
医療保障全体に言えるが、高額療養費制度がある限り、一般所得者の月々の医療費の負担は最高でも約9万円強で抑えられるため、(確かに痛い負担ではあるが)保険に頼る必要性は低い。
また、各保険会社のコールセンターに調査をかけたところ、自転車事故の加害者のケガは通院治療が多いという回答を得たことから、やはり必要性は低い。
2.医療保険があれば不要
医療保険に加入している人にはまったく不要だろう。病気もケガも保障してくれる医療保険に対し、交通事故傷害保険は”交通上用具に起因するケガ”しか補償してくれない。そのぶん保険料は安いが、既に医療保険に加入済みの人にそこは関係ない。
したがって、医療保険に加入しておらず、なおかつ個人賠償責任保険も持っていない人は、自転車保険でカバーするのは良いと考える。
3.「交通事故全般」を補償するため保険料が割高
”交通上用具”まで補償を拡げているため保険料が高くなっている点に魅力は感じない。
ただこの点について、最近は「自転車に搭乗中のみ」と補償を限定し、保険料を下げている会社・プランもあるので、医療保険に加入している人であっても多少の保障のダブリは目をつむれる範囲ではないだろうか。
結論まとめ
自転車保険に付いている個人賠償責任保険は絶対に持っておきたい保険。これは必要。ただし、自動車保険や火災保険からも加入することができるため、加入ルートは自転車保険だけではない。
以上から、自転車保険が必要でない人、そうでない人をまとめると次のようになる。
- 個人賠償責任保険のない人 → 必要。自転車保険経由でなくともいいから今すぐ入れ。
- 家族が個人賠償責任に入ってるかも? → 微妙。個人賠償責任保険の補償範囲は、本人限定のものや、家族を(配偶者・子供)含むものがある。契約内容を今一度確かめ、自分が含まれていないなら入るべし。
- 個人賠償責任あり、医療保障なし → 基本的に不要。「自転車に搭乗中のみ」の保険や、「TSマーク付帯保険」などコストパフォーマンスの良い保険なら考えてもいいかも。
- 個人賠償責任あり、医療保障あり → まったく不要。そんなことに悩んでいる時間があるなら筋トレでもしよう。
火災保険の特約の中には、保険金の額が極めて少ない時(例えばAIGのリビングサポート は2000万円。)も加入した方がいいでしょう。
おっしゃるとおり、補償内容が頼りない場合は自転車保険を含め他の個人賠償が必要ですね。